てんかんとは?
てんかんは、世界保健機関(WHO)によると「脳の慢性疾患」で、脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生する電気的な興奮により繰り返す発作を特徴とし、それに様々な臨床症状や検査での異常が伴う病気と定義されています。てんかんの原因は、脳内の神経伝達物質の受容体の異常や、脳の先天的(皮質形成異常)あるいは後天的(脳梗塞、脳出血、脳挫傷)な構造異常、髄膜炎や脳炎などの感染症、自己免疫疾患、代謝性疾患、一部の遺伝性疾患(結節性硬化症)、変性疾患(アルツハイマー病)などが挙げられます。てんかんは上記のような病態に起因し、脳そのものに興奮のしやすさがあり、基本的に特別な誘因なく(非誘発性)発作が起こります。従って、脳震盪、血糖異常、電解質異常、発熱、脳の一時的な血流低下などによって起こる誘発性のけいれんや意識消失はてんかんとは言いません。
てんかんの実用的診療定義
てんかんとは以下のいずれかの状態と定義される脳の疾患です
● 1回の非誘発性(または反射性)発作が生じ、その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度である
● てんかん症候群と診断されている
Risher R,et al. Epilepsia. 2014
てんかんの有病率はおおよそ一般人口100人に0.5から1人(0.5〜1%)と言われており、3歳以下と60歳異常の高齢者で発症率が高い特徴があります。小児のてんかんでは、生まれた時の脳の興奮のしやすさ(素因性)や脳の損傷、先天性代謝異常、先天奇形が多く見られ、高齢者のてんかんの原因の半数は脳卒中、次に脳腫瘍、アルツハイマー病が関係しています。

てんかんの診断
てんかんの診断は主に、問診、脳波検査、頭部MRIを行うことが一般的です。てんかんの発作は、強直間代発作(全身けいれん)、意識減損発作(ボーッとして反応が低下する)、自動症(口をもぐもぐさせる、手で衣服などをいじる、うろうろする)、ミオクローヌス(体や手足の一瞬の早いピクつき)、視野異常(模様が見える)、感覚異常(手足が痺れる、めまい)の他に、既視感、未視感、錯覚など多彩な症状を呈します。これらの症状を丁寧に患者本人、家族や介護者から問診することが、診断に重要です。また、これらの症状と一致する脳波やMRI等の所見があれば、より正確なてんかん病型、てんかん症候群の診断も可能となります。例えば、側頭葉てんかんでは意識減損発作が起こり、会話中に動作が止まり、口をもぐもぐさせて、一点を見つめるような状態になります。全身けいれんで初めて病院を受診することもあり、よくよく問診すると記憶が途切れ途切れになっていることもあります。頭部MRIでは海馬硬化症といって側頭葉内側が萎縮し、高信号を呈することもあります(図1)。また脳波では前頭側頭部にてんかん性放電を認めます。前頭葉てんかんは就寝中に起こることが多く、声を上げて全身けいれんを起こします。朝起きて、頭が重い、全身の筋肉痛・倦怠感、舌や口腔内から出血したりして発作に気が付く人もいます。頭部MRIでは異常がないこともある一方で、外傷、脳卒中による瘢痕脳回や、側脳室前角から前頭葉皮質に伸びる信号変化(トランスマントルサイン)、皮髄境界の不明瞭さ、脳回の肥厚などの皮質形成異常を認めることもあり、脳波では病側の前頭部あるいは両側前頭部にてんかん性放電を認めます。
図1:頭部MRI(FLAIR)での右海馬硬化所見(矢印)

てんかんの種類
てんかんの発作の種類は、主に脳の一部分が発作の原因となり、異常な脳の興奮がほかの領域に広がっていく焦点性てんかんと、詳しくは証明されていませんが、脳の深部や脳の広い範囲に発作の震源地があり、脳全体が同時に異常に興奮する全般性てんかんの二種類に分けることが一般的です。
焦点性てんかんでは脳の一部分の異常な興奮で症状がおこり、興奮の広がった場所に特徴的な症状がでます。例えば手足を動かす運動領域に広がると顔や手足ががくがく(間代性けいれん)したり、固くなったり(強直性けいれん)します。感覚領域では手足や顔がしびれたり、島回というこめかみの深いところにある脳の領域に広がるとのどの締め付け感、よだれが垂れるなどの症状がでたりします。側頭葉とくに海馬に広がると前述のように、ぼーっとして意識が遠くなったり、懐かしい感じやみぞおちのむかむかした感じがでたりします。
全般性てんかんの場合は、焦点性でみられるような部分的な症状なしにいきなり全身けいれん(強直間代発作)をおこしたり、体や顔がぴくぴく(ミオクローヌス)したり、ぼーっとして動かなくなったり(欠神発作)します。
図2:てんかんの分類

てんかんの内科的治療
図3:抗てんかん発作薬の歴史

てんかん治療は、まず薬物療法をまず考えます。これまでに、約45種類の抗てんかん発作薬が使用できるようになりました(図3)。昔からある薬ではバルプロ酸(商品名:デパケン、セレニカ)、カルバマゼピン(テグレトール)、フェニトイン(アレビアチン)がよく使われています。最近の薬ではトピラマート(トピナ)、ゾニサミド(エクセグラン)、ラモトリギン(ラミクタール)、レベチラセタム(イーケプラ)、ラコサミド(ビムパット)、ペランパネル(フィコンパ)などがあります。第二世代以前の昔の薬は焦点性てんかんと全般てんかんで使い分けがされることが多く、焦点性にはカルバマゼピン(テグレトール)、フェニトイン(アレビアチン)、全般性にはバルプロ酸(デパケン、セレニカ)を使うことが多いです。新しい世代の薬は昔の薬と比べると副作用が少ないです。古い薬は、血をさらさらにする薬(ワーファリン)や抗生剤(メロペネムなど)、喘息の薬(テオフィリン)の血中濃度に影響を与えたり受けたりすることが多く、最近は新しい世代の薬をまず試すことが多くなってきています。てんかんの薬はどれも、眠気、ふらふらする副作用が多く、そのほかにもそれぞれ特徴的な副作用(催奇形性、肝障害、腎障害)もあるため、複数のお薬で治療が必要な場合は専門医での薬剤調整が望ましいです。
図4は、てんかんと新たに診断された患者の抗てんかん発作薬による発作消失率を表しています。1剤目の薬で発作が止まる人が、およそ45%、2剤の併用あるいは変更で止まる人が約60%で、3剤目以上の薬で止まる人が65%程度で、残りの3割くらいの患者は薬物治療で発作が止まりません。てんかん診療ガイドライン2018によると、薬剤抵抗性てんかんとは、“そのてんかんに対して適切とされる抗てんかん薬を単剤あるいは多剤併用で副作用がない範囲の十分な血中濃度で2剤試みても一定期間(1年以上もしくは治療前の最長発作間隔の3倍以上の長いほう)発作を抑制できないてんかん”と定義されています。この定義に当てはまる患者に対し、外科治療が考慮されます。
図4:新規発症てんかんに対する抗てんかん発作薬数(単剤あるいは併用)による発作消失率

てんかんの外科的治療
てんかんの外科的治療には主に焦点切除術と緩和的外科治療(脳梁離断術、迷走神経刺激術)があります。焦点性、全般性・多焦点性いずれのてんかんに対しても外科治療は適応となり得ます。焦点性の場合、基本的に焦点切除を目指しますが、焦点が機能領域にあるものは、迷走神経刺激術術や皮質に切れ込みを入れて発作を抑制する皮質多切術が考慮されます。また、全般性・多焦点性てんかんでは転倒発作を認める場合は脳梁離断術を優先し、転倒発作がない場合は迷走神経刺激術を検討します。脳の一側半球に広範な異常があり、てんかん重積や、重度の脳症を来たす破滅型てんかんには半球離断術が適応となります(図5)。
図5:てんかん外科治療の流れ

焦点切除術の中で最も代表的なものが、内側側頭葉てんかんに対する側頭葉前方切除術で側頭葉皮質を海馬・扁桃体とともに切除します。この治療はランダム化比較試験での内科的治療との比較で外科治療の優位性が証明されており(Wiebe et al. New England Journal of Medicine. 2001)、発作消失率はおよそ60〜80%と報告されています(Tellez-Zenteno et al. Epilepsy Res. 2013)。その他、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、島回などにてんかんの焦点となりうる瘢痕脳回や皮質形成異常、腫瘍があれば必要に応じて頭蓋内電極を用いた慢性頭蓋内脳波、脳機能マッピングを行い、発作焦点やてんかん原性の広がり、運動野、言語野などの機能領域を評価した上で切除範囲を決定します。
緩和的外科治療は脱力発作をもつ薬剤抵抗性てんかんに対する脳梁離断術、焦点切除の対象とならない(焦点が機能領域にある)薬剤抵抗性てんかんに対する迷走神経刺激術(Vagus nerve stimulation; VNS)が挙げられます。脳梁離断術は文字通り、左右大脳半球をつなぐ脳梁を切断し、半球間の神経線維連絡を離断します。発作焦点を切除するものではないため、発作は残存しますが、てんかん性放電の広がりを抑制することで発作症状を軽くしたり、頻度を減らします。特に、強直発作や脱力発作で突然倒れる転倒に有効で、90%の患者で転倒発作を抑制したと報告されています(Sunaga et al. Seizure. 2019)。迷走神経刺激術は、左頸部にある迷走神経に刺激電極を巻きつけ、左前胸部の皮下に埋め込んだペースメーカーのような刺激装置と接続し左迷走神経を持続的に刺激することで、てんかん発作を抑制します(図6)。刺激開始後2〜4年間で発作が50%以上減少した患者が63%で、発作消失した患者が8.2%と報告されています(Englot, et al. Neurosurgery. 2016)。迷走神経刺激術は米国ではうつに対しても認可されており、近年では脳梗塞後の治療で、リハビリと迷走神経刺激術の組み合わせで上肢運動機能障害の改善効果があったとの報告(Dawson, et al. Lancet. 2021)があり注目されております。高齢者てんかんの半数は脳卒中が原因ですので、脳卒中後の薬剤抵抗性てんかんに対しての迷走神経刺激術は良い適応になり得ます。
図6:迷走神経刺激装置(リヴァノヴァ株式会社ホームページより許可を得て引用
https://www.livanova.co.jp/neuromodulation/nm/)

てんかん外科の適応は?
てんかんの診断では、問診、脳波検査、頭部MRIを行いますが、手術適応を決定するためにはこれらの検査に加えて、ビデオ脳波モニタリング、PET、SPECT、脳磁図等を行います。ビデオ脳波モニタリングは特に重要で、てんかんが焦点性なのか全般性あるいは多焦点性なのかを判断するのに必須です。またてんかんと考えられていた発作が、ヒステリー発作などの心因発作やレス睡眠行動障害などの非てんかん性の発作である可能性を除外することも外科治療適応を決定する前に必要です。
ビデオ脳波モニタリングはビデオと同期した脳波を発作が捕捉されるまで数日持続的に行う検査で、発作を誘発するために減薬して行うこともあります。発作が起こった時のてんかん性異常波が脳の局所から起こる場合は焦点性(図7)、脳の広い範囲で同時に認められる場合を全般性(図8)と言います。全般性に異常波が見えるタイプでも脳の局所から発作が起こるパターンもあります。また、脳波異常が出現している時の発作症状が脳のどの部分と関連しているかも併せて考える必要があり、発作時ビデオ脳波の解釈は経験を積んだ専門医による判断が必要になります。
図7:焦点性発作時脳波(脳の一部分から発作が起こるタイプ)
上から青(左側に置いた電極)、赤(右側に置いた電極)、青、黒(正中)、青、黒、赤、ピンク(心電図)の波(脳波)があり、黄色で囲んだところに発作の波(それまでの波より高くなり、幅が広くなっているところ)が左側に置いた電極に出ていて、左側の脳に発作の震源地(焦点)があることがわかります。発作30秒後には脳全体に発作の波が広がっています。


図8:全般性発作時脳波(脳の全体が一気に発作に巻き込まれるタイプ)
発作の波がすべての電極でほぼ同時に開始します。

ビデオ脳波モニタリングでは、発作の記録が目的ですが、発作が起こっていない時(発作間欠期)の脳波も脳の興奮の起こりやすさ(易刺激性)の広がりを評価します。焦点性てんかんの場合は、通常脳の一部分あるいは複数箇所(多焦点)からてんかん性放電を認めます(図9)。全般性てんかんの場合は脳全体の広い範囲に同時にてんかん性放電を認めます(図10)。
図9:焦点性異常波(左の脳波では左前頭側頭部に、右の脳波では右前頭側頭部にてんかん性放電を認める(黄色で囲ったところ、図7と同一症例)。左側と正中部分に置いた電極でてんかんの波を認めます。

図10:全般性異常波(丸で囲んでいるところに、脳の広い範囲の電極でてんかん性放電が同時に認められる、図8と同一症例)

通常、脳の興奮しやすい範囲(発作間欠期のてんかん性放電が見られる領域)は、てんかんの発作が起こる震源地(発作時のてんかん性放電が見られる領域)よりも広い領域であることが多いです。焦点切除術は、主に発作の起こる領域を特定し切除するため、発作時の情報は手術適応(手術をしてよくなるか?どの範囲をとればよいか?)を決定するのにとても重要です。
脳波は脳神経細胞の活動により発生する電場(電流)を記録するものですが、電流は脳、脳脊髄液、頭蓋骨、皮膚を伝わって脳波の電極に到達するため、脳深部の活動は減衰しうまく記録できない場合があります。脳磁図は脳神経細胞の電流で発生する微弱な磁場を測定する検査ですが、磁場は電場のように体内で信号が減衰することがなく、電場を検知するセンサーの数も306チャンネル(Elekta社)あり、より正確なてんかん焦点の場所を知ることができると言われています(図11)。また脳波では信号を検知しにくい、脳溝(脳のしわ)にあるてんかんの信号を検出する能力が高い特徴があります。
図11:右側頭葉てんかんの脳磁図検査所見(下段MRI画像の黄色のマーカーがてんかん性放電の発生部位を示す)

他にもてんかん焦点では糖代謝が低下する性質を利用し、FDG-PETと呼ばれる糖代謝をみる検査も術前検査で広く行われています(図12)。またSPECTと呼ばれる脳の血流(ECD-SPECT:図13)を調べる検査もあります。発作が起こると発作の焦点では血流増加がおこり、発作がないときは血流は正常な領域と比べて少なくなります。イオマゼニルSPECTという検査では脳の興奮を抑えるベンゾジアゼピン受容体の脳内での発現を調べることができ、発作の焦点で受容体の数が少なくなります。
図12:FDG-PET検査(右内側側頭葉てんかん患者の糖代謝所見。矢印の範囲で糖代謝が低下している)

図13:ECD-SPECT検査 発作が起こっているところが反対側(向かって左側)と比べて血流が増えています(向かって右側の黄色の楕円で囲んだ部分)

頭部MRIもてんかん焦点の同定に有用です。典型的な内側側頭葉てんかんでは海馬硬化症(図1)を伴うことがあり、その他脳腫瘍、皮質形成異常、脳出血や脳梗塞、海綿状血管腫、外傷による瘢痕脳がてんかん発作の原因(焦点)となり得ます。ただし、これらの異常部位そのものからてんかん発作が起こる場合と、その周りの脳から発作が起こることもあり、厳密にてんかん焦点を調べるには頭蓋内電極といって脳の表面や内部に電極を設置して脳の活動を直接調べる脳波検査を行うこともあります。
本邦のてんかん外科の現状
日本におけるてんかん外科の実施症例数は2011年の600症例から2019年には1200症例に増加しています。これは2010年に迷走神経刺激術が日本で認可された影響が大きく、2019年には400症例の迷走神経刺激術が行われています(Mikuni, et al. Neurolo Med Chir. 2021)。一方で、米国では2019年に8978症例が手術を受けております(Ostendorf, et al. Neurology. 2022)。米国では、薬剤抵抗性てんかんの1.18% (Kaiboriboon, et al. Epilepsy Res. 2015) が外科治療を受けていると推定されており、同様の計算を行うと日本では0.56%が手術を受けていることになります。日本では、外科的治療が可能なてんかん患者が十分な手術療法を受けられていない可能性があります (前澤ら. 現代医学. 2022)。
てんかん薬剤治療が基本ですが、典型的な内側側頭葉てんかんでは外科治療で発作消失が期待できます。また、これまで焦点切除術の対象とならなかった薬剤抵抗性てんかんに対しては、迷走神経刺激術で発作の減少や緩和が期待できます。2剤以上を試した薬物治療で発作が毎月起こるような患者ではてんかんの外科治療の対象となる可能性があります。発作が止まらない患者さんがおられる場合は専門医による診察が勧められます。
メディア情報
これまでにメディアに紹介された「てんかん」に関する記事をご紹介いたします。